睡眠障害・発達障害部門

子どもの睡眠障害

持続する子どもの睡眠障害は、脳機能を低下させ、記憶力・判断力・注意力・意欲が低下します。また、自律神経機能も乱れて、体調不良になり、体力が低下します。身体の中では、炎症性サイトカインの上昇、メラトニン合成酵素活性の低下などが観察されます。同年代の子どもに比べて“出来ないこと”が増えるなど、子どもの発育・発達に大きな影響を及ぼします。“出来ないこと”が増えてしまった子どもでは、自己評価が下がり、自信を失ってしまうこともあります。私たちは、「睡眠障害を治すことにより、子どもの“出来ないこと”を減らし、“出来ること”があることを子ども本人が気付き、自分らしい人生を歩んでくれる」ことを願って診療しています。

主な病状

  1. 睡眠に問題があり(寝つきが悪い.夜間睡眠の途中で何度も目覚める.極端に早く目覚める.夜に眠れない.夜間睡眠時間が短い.朝に起きられない/朝に目覚めない.昼間に眠くなるなど)、昼間の生活に支障をきたしている場合が治療の対象になります。睡眠障害の病名としては、不眠症、過眠型睡眠障害、概日リズム睡眠・覚醒障害、睡眠不足症候群、夜泣き(乳幼児睡眠障害)などが挙げられます。
  2. 睡眠中の行動異常として、錯乱性覚醒、睡眠時遊行症(夢遊病)、睡眠時驚愕症、悪夢障害、遺尿症などがあります。
  3. 睡眠に関連して起こる運動障害には、むずむず脚症候群、睡眠関連律動性運動障害などがあります。
  4. 発達障害(自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、発達性協調運動症、限局性学習症など)に上記1. 2. 3.の症状が見られる場合があります。

子どもの発達障害

診療は、睡眠障害でお困りの発達障害の子どもさんに限らせていただきます。
なお、発達性協調運動症や限局性学習症でお困りの子どもさんについては、睡眠障害の有無に関係なく、評価と診断を行い、ご本人・ご家族の相談に応じます。

  • 受診年齢:初診時(最初の診察)は、生後6か月から中学3年生までにさせていただいております。その後、必要時には、私たち小児科医が診療できる範囲内で18歳~20歳まで診させていただきます。
  • 夜泣き外来:眠れない乳幼児(6か月~4歳未満)のための外来診療枠です。
  • 睡眠障害の状態を把握するために、すいみん日誌の記録をお願いしています。ホームページ掲載のすいみん日誌をダウンロードして、受診日までの記録をお願いします。その記録をもとに診察いたします。

すいみん日誌 PDF版

スタッフ紹介

氏名 役職 卒業年次 専門医資格など 専門領域
菊池 清
  • 子どものリハビリテーション・睡眠・発達医療センター長兼 診療部 小児科部長
昭和52年
  • 日本小児科学会認定小児科専門医
  • 日本内分泌学会認定内分泌代謝(小児科)専門医
  • 「子どもの心」相談医(日本小児科医会)
  • 日本医師会認定産業医
  • 医学博士
  • 臨床研修指導医
  • 第1種放射線取扱主任者
  • ICD制度認定インフェクションコントロールドクター
  • 成長科学協会地区委員
  • ドクターオブドクターズネットワーク優秀専門臨床医
  • 小児睡眠障害
  • 小児内分泌代謝
  • 小児心身症
豊浦 麻記子
  • 子どものリハビリテーション・睡眠・発達医療センター部長
  • 神経小児科部長兼小児科部長
平成9年
  • 日本小児科学会認定小児科専門医
  • 身体障害者福祉法第15条指定医
  • 小児科
豊田 有子
【非常勤】
  • 小児科医師
平成13年
  • 日本小児科学会認定小児科専門医
  • 日本内分泌学会認定内分泌代謝科(小児科)専門医
  • 小児科
  • 小児内分泌代謝
上月 遥
【非常勤】
  • 小児精神科医師
平成20年
  • 精神保健指定医
  • 精神神経学会精神科専門医
  • 児童青年精神医学会認定医
  • 児童精神

入院治療について

外来診療で治療が困難な場合には、入院治療を行います。医師・看護師・保育士・臨床心理士・作業療法士・言語聴覚士・薬剤師・栄養士・社会福祉士など関係する専門職員が連携してチーム医療を提供します。

入院期間は、疾患ごとに、また患者さんごとに異なります。一例として、概日リズム睡眠・覚醒障害の標準的な治療プログラムを紹介します。入院時に各種検査(終夜睡眠ポリソムノグラフィー、深部体温測定、血液検査、起立試験、画像検査など)を行い、病気の状態を把握します。その後、早朝の高照度光療法、規則的な食事摂取、運動療法を組み合わせた8週間のプログラムで、必要に応じて薬物治療や心理療法を行います。さらに自律神経機能を改善する目的で低温サウナ療法を行います。集団で治療を行うことで、患者である子ども本人が前向きに治療に取り組むことができ、より高い治療効果が期待できます。また入院中、小中学生は兵庫県立のじぎく特別支援学校の訪問学級にて学習支援を受けることができます。

ナースステーションの写真
ナースステーション
光治療器室の写真
光治療器室
低温サウナ療法室の写真
低温サウナ療法室

睡眠障害とは

睡眠には、年齢と体質に応じた必要な睡眠時間があります。夜間連続睡眠中に、脳も身体も育ち、記憶の定着など脳神経細胞ネットワークが創られ、脳内の老廃物が効率よく排泄され、活性酸素などの有害物質が効率的に処理され、身体の傷が癒されるなど、生きていくために必要な生理学的な営みが行われます。夜間連続睡眠が慢性的に不足した状態では、アミロイドβ42(アルツハイマー型認知症の原因物質)の蓄積・炎症性サイトカインの上昇・耐糖能低下などが観察され、判断力・記憶力・注意力・自制力が低下し、体力も低下し、肥満症・糖尿病・高血圧症・認知症に将来なる危険性が高まります。

また、朝から元気に活動するためには、体内時計による身体のリズムを整える必要があります。人の“からだ”は数十兆個の細胞からなり、生殖細胞を除いたあらゆる細胞に体内時計の仕組みが存在します。この数十兆個の体内時計の時刻合わせ(同調)は、眠る時刻・目覚める時刻(脳が光を感知する時刻)・食事(朝食・昼食・夕食)の時刻などを目安に、自律神経やホルモンが介在して行われています。眠る時刻・目覚める時刻・食事の時刻が一定しない不規則な生活では、自律神経バランスやホルモン分泌が乱れやすく、数十兆個の体内時計の時刻が乱れ(脱同調)、血圧・脈拍・体温の調節や胃腸の働きなどが不安定になり、体調不良となります。

通常、睡眠障害は体内時計の乱れを伴います。睡眠障害や体内時計の乱れによる症状のほとんどが自覚症状であるため、周囲の人から理解されにくいようです。それどころか、24時間動いている現代社会においては、自覚症状に悩む本人でさえ、その理由を十分に承知できていない場合が少なくありません。そのため、表面化した気になる行動や困った行動のみが問題にされ、頑張りが足りない気合い論や“こころ”だけの問題として処理され、悩む本人を辛い状況に追い込むことがあるようです。

睡眠障害の治療では、「睡眠と体内時計の調整」が重要です。必要な睡眠時間を確保し、体内時計を調整して、睡眠・覚醒リズム(概日リズム)を地球の自転がつくりだす昼夜リズムに合わせることです。昼間の活動状態と夜間の睡眠状態を改善させることが治療目標です。

子どもにとって望ましい睡眠時間

米国睡眠医学会から、米国小児科学会の推奨を受け、子どもにとって望ましい睡眠時間が示されています(J Clin Sleep Med 2016; 12(6):785-6)。生後4か月から11か月では12~16時間、1~2歳では11~14時間、3~5歳では10~13時間、6~12歳では9~12時間、13~18歳では8~10時間です。なお、大人は7~9時間とされています(Sleep Health 2015; 1:40-3)。

睡眠障害の原因

病気の原因は体質要因と環境要因に大別され、互いに影響しあって発病します。睡眠障害も例外ではありません。

体質的要因では、眠り続ける力が弱い体質が存在します。眠りたいのに眠れない状態です。寝つきが悪いタイプ、睡眠の途中で何度も目覚めるタイプ、異常に早く目覚めるタイプがあります。幼い子どもの場合では、眠れずに不機嫌になったり、癇癪を起したり、泣き叫んだりして、保護者や周囲の人を当惑させます。逆に、目覚め続ける力が弱い体質も存在します。日中の活動途中に眠ってしまう過眠症です。これらの体質の一部は、覚醒ホルモン(オレキシン)の異常によることが判明しています。オレキシンの機能亢進状態では、眠り続ける力が弱く、不眠症になります。オレキシンの機能低下状態は、目覚め続ける力が弱く、過眠症になります。

他に、幼い子どもでは、眠り続ける力や起き続ける力が育っていない場合があります。これらの力は、生後6か月までにはある程度育ちます。生後9か月を過ぎてもこれらの力が育たず、日常生活に支障をきたすならば、発育・発達への影響が心配されます。

また、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、胃食道逆流症、喉頭軟化症、小下顎、扁桃肥大やアデノイドなどの体質も眠りを妨げる要因になります。

環境要因では、24時間活動し続ける現代日本社会を背景に、夜型生活習慣の保護者の影響がある場合、塾・習い事・部活動などを頑張り過ぎて睡眠時間を削った場合、特定のものにのめり込み過ぎて睡眠時間を失った場合(ゲーム依存症など)、夏休みなどの長期休暇で遅寝朝寝坊の習慣がついた場合、学校での居場所を失い日常生活が不規則になった場合、これらのいくつかが組み合わさった場合などが挙げられます。

子どもの睡眠障害の主な病気

1. 不眠症
乳幼児不眠症は、子どもの脳の発育・発達に影響を及ぼす危険性があります。生後6か月以降で、眠る環境を整えても、「夜間に連続して8時間以下しか眠れない」、「夜間睡眠中に途中で目が覚めて、再入眠に20分以上かかる」、「22時以降にしか入眠できず、8時以降にしか起床できない」、「眠る時刻・起きる時刻が定まらず、日ごとに90分以上のばらつきがある」などの睡眠障害があり、そのために昼間の活動に支障をきたしている場合です。昼間の症状としては、不機嫌、かんしゃく、不活発、動作緩慢で何事にも時間がかかる、眠気、不規則な昼寝などが挙げられます。
2. 睡眠時関連呼吸障害(睡眠時無呼吸症候群など)
睡眠中の呼吸異常症です。眠っている間に、血液中酸素濃度が低下し、睡眠の質が悪くなります。眠っても、疲れがとれず、記憶力・注意力・意欲が低下し、昼間に強い眠気に襲われます。扁桃・アデノイドの肥大や肥満があり、口呼吸やイビキがあれば疑います。また、下顎が小さく、睡眠中に喘鳴がある場合も疑います。
概日リズム睡眠・覚醒障害
体内時計が乱れた睡眠障害です。眠れる時間帯が通常と異なり、遅寝朝寝坊の睡眠相後退型、眠れる時間帯が定まらない不規則睡眠・覚醒型などに分類されます。昼夜逆転する場合もあります。睡眠時間が長くとれても、体内時計の乱れによる自律神経バランスやホルモン分泌の不安定さがあり、意欲がわかず、体調はすぐれません。不登校の原因にもなります。
3. 過眠症
眠り過ぎる病気です。代表的なものにナルコレプシーがあります。昼間に場所や状況を選ばずに起こる、強い眠気発作が主な症状です。筋肉の力が抜ける脱力発作を伴い、倒れたり、膝の力が抜けたりすることがあります。15歳前後から発症することが多く、原因はオレキシンの欠乏症です。
4. 睡眠時随伴症
眠っている間に起こる無意識の行動です。夜驚症と遊行症(夢遊病)があります。入眠後1~3時間ころに、睡眠中に突然叫んだり、泣いたり、怒ったり、歩いたり、走り回ったり、階段の昇り降りが1~10分間ほど続き、自然に治まり再び眠りにつく発作です。本人は何も覚えていないのが特徴です。原因は不明です。特に治療を必要としませんが、発作時に怪我をしないような配慮が必要です。脳の機能が成熟する思春期までには消失します。規則的な生活リズムで適切な睡眠をとることにより、症状が軽快します。
夜尿症も睡眠時随伴症のひとつです。小学校入学以降も続く場合を問題にします。「夜尿アラーム療法」など治療法がいくつかありますが、その効果は個人差が大きいようです。多くの場合、脳と身体の機能が成熟する思春期ころまでに自然に消失します。なお、尿回数が多く、尿量が多く、水分をたくさん飲む場合には、尿崩症などの病気の可能性がありますので、かかりつけ小児科医に相談してください。
5. レストレスレッグズ症候群
むずむず脚(あし)症候群とも言います。主として下肢に不快な感覚が生じ、じっとしているとひどくなるので、下肢をこすり合わせたり、たたいたり、歩き回ったりして眠れなくなります。原因は不明です。しっかり眠れると軽快、または消失します。